
腕時計を選ぶにあたり、皆さんはどんな部分に重きを置いて選んでいますか?
デザインや素材、ブレスレットかラバーベルトか、ダイアルカラーなどなど、人それぞれ重視するポイントは異なりますが、「 機械式 」か「 クォーツ 」かという点も一つの基準としている方も多いのではないでしょうか。
でも、腕時計初心者の方やこれから初めて腕時計を買おうとする方にとっては、そもそも「機械式」と「クォーツ式」の何が違うのか、自分にはどちらが合っているのかわからない方もいらっしゃるでしょう。
結論、腕時計にロマンや趣味性を見出したい方は機械式、実用性や価格メリットに重きを置く方はクォーツが合っていると私は思っています。
玄人になるほど好みやこだわりも細分化していく奥深いムーブメントの世界ですが、腕時計初心者にとっては一見すると小難しくて立ち入り難いもの。
今回は、機械式とクォーツのどちらが良いか迷っている方やこれから腕時計を選んでいこうとされる方に、それぞれの特徴やメリット・デメリットなど、ポイントを絞ってご紹介したいと思います。
機械式 ってなに?

機械式やクォーツ式、この違いはなんのことかというと腕時計を動かす動力源の違い。
機械式はその名の通り、多数の細かな部品が精巧に組み立てられた小さな「機械」が腕時計に搭載されています。その機械のゼンマイを巻き、ほどける力を動力源として大小複数の歯車を通じて針を動かす仕組みになっています。
機械式腕時計には大別すると、自動巻きのと手巻きの二種類があります。
自動巻き
自動巻きの腕時計には、腕の動きに合わせて回転するローターがムーブメントに内蔵されていて、自動的にゼンマイを巻き上げて動力を保つ仕組み。
腕時計のダイアルやケースバックに”Automatic”と記載があれば、その腕時計は自動巻きです。
腕時計を装着していれば、リューズを自分で巻き上げる手間をかけずに時計が駆動し続けるので、実用性の面でも使い勝手が良く広く、現代の機械式時計の中では一般的に使われることが多いのも自動巻きです。
手巻き式
自動巻きがローターによって自動で巻き上げられるのと異なり、手巻き時計は時計を動かす動力である主ゼンマイを手動で巻き上げるタイプの時計。最も古くから用いられている駆動方式です。
毎日のように手でゼンマイを巻きあげて使用するため、手間はかかるものの、愛好家には根強いファンがいます。
自動巻き時計と比べるとローターを持たないので、機械もシンプルな構造にでき薄型化しやすく、メンテナンス費用も抑えられる傾向にあります。
手巻きの有名なモデルとしては、オメガのスピードマスタームーンウォッチプロフェッショナル(Ref: 310.30.42.50.01.001)などがあります。
スピードマスターはモデルにより自動巻き、手巻きとそれぞれラインナップされているので好みに合わせて選べるのが嬉しいですね。

機械式腕時計のメリット・デメリット
では、機械式腕時計のメリット・デメリットはなんでしょうか?
当然、人それぞれの感性によるところもあるので一概には言えませんが、一般的な話として以下のように言われています。
機械式 のメリット
人生の相棒として長く使える

機械式腕時計は定期的なオーバーホールやメンテナンスをしていけば、数十年と愛用し続けることができます。
パテックフィリップやIWC、ジャガールクルトなど、一部の老舗ブランドでは永久保証サービスを行なっているものさえあります。家電製品や車など、壊れたら使い捨てる他の機械とは異なりサステナブルな点も腕時計の魅力。
また、これらの永久保証を行うブランドの腕時計ならば、何十年と自身が愛用できることはもちろん、親から子へ、子から孫へと先祖代々受け継ぐ家宝にすることも可能です。
自分のご先祖の時を刻んできた腕時計を、時代を超えて使用できるなんて、めちゃくちゃロマンチックではないでしょうか。
機能や複雑機構を搭載できる
機械式腕時計のメリットとしては、
・趣味性の高さ
・資産性
がクオーツ式腕時計よりも高い傾向があります。
機械式腕時計の醍醐味はなんといっても長い歴史の中で洗練され続けてきた精巧なムーブメント。特に複雑機構を搭載されたムーブメントは、ちょっとやそっとの技術力では作り上げることができず、自ずとその資産性も増す傾向にあります。
「トゥールビヨン」「パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)」「ミニッツリピーター」は三大複雑機構と呼ばれますが、これらの機構をムーブメントに積んだ腕時計は、家が買えるくらいの高額になるモデルも存在しています。
三大複雑機構以外にも、月の満ち欠けをダイアルで表現するムーンフェイズや、ゼンマイの巻き上げ状況を視覚的に確認できるパワーリザーブインジケーターなど、さまざまな複雑機構の種類が存在します。
複雑機構をでなくとも、ケースバックがシースルーになっているモデルも最近では多く、腕時計の中に積まれたムーブメントの動きを自分の目で見ることができるのも機械式腕時計ならではの楽しみです。
-767x1024.jpeg)
歯車やゼンマイなどの小さな部品だけで、どこまで複雑な機械を組み上げることができるのか。機械式腕時計のムーブメントを眺めながら、人間の叡智の結晶に酔いしれるのも一興ではないでしょうか。
機械式 のデメリット
では、機械式腕時計のデメリットはなんでしょうか?
代表的なデメリットといえば以下が挙げれます。
使用しないと止まる
機械式ムーブメントは巻き上がったゼンマイがほどける力を使って機械を動かします。そのため、長時間使用せずにゼンマイがほどけきってしまうと、その動きは止まります。
金曜に使った後に置いておいた腕時計を、土日を挟んでいざ月曜に使おうと思うと止まっていた、などの場面は、パワーリザーブの長さによっては起こり得ます。
止まった腕時計はまたゼンマイを巻き上げれば動き出しますが、巻き上げ作業や時刻合わせを億劫に感じる人にとってはデメリットになりうるポイントです。
誤差はクォーツ時計より大きい
一般的に機械式腕時計は1日で±数秒〜±数十秒の日差が生じます。
これはどんなに高価な機械式腕時計でも生じ、精度の面からは安価なクォーツ式に軍配が上がります。
「1秒たりとも時刻の誤差は許せない」という方は、機械式よりクォーツ式を選んだ方がストレスがないかもしれません。
磁気や衝撃に弱い

小さな部品を精巧に組み上げられた機械式腕時計は、携帯やPC、家電製品などが発する磁気により部品が磁気帯びし、精度に悪影響を与える場合があります。
近年では様々なブランドが耐磁性能を高めたムーブメントを開発しており、オメガやチューダーは、マスタークロノメーター認証を受けたコーアクシャルムーブメントを搭載したモデルも発表しています。このマスタークロノメーター認証では、15,000ガウスの耐磁性能を有し、MRIに入っても磁気帯しないという脅威の耐磁性能を誇っています。
ただし、これはあくまで例外。基本的に機械式腕時計はPCやスマートフォンに近づけすぎないよう注意が必要です。
また、同様に小さな部品で組み上げられている時計内部の機械には衝撃は御法度。
機械式腕時計をしたまま激しいスポーツをしたり、床に落としたりなど、衝撃を与える行為はムーブメントの部品にダメージを与えかねないので絶対に避けたいところです。
維持費が高い

機械式腕時計は数年に一度、オーバーホールを行う必要があります。
この費用がなかなかにバカにできません。
オーバーホールとは、時計を分解し、中の部品全て、洗浄、再組立、注油、調整、実測、検品をするメンテナンスのこと。これを怠ると、部品同士の摩耗や潤滑油の劣化などによりムーブメントに不具合が生じ、最悪は故障し腕時計が動かなくなってしまいます。
車の車検と同じく、定期的なメンテナンス費用がかかるので、機械式腕時計は購入費用とともにオーバーホールなどの維持費も考慮にいれておいた方が良いですね。
高額なブランドや複雑機構を積んだ腕時計のオーバーホールは、相応に高額になってきますので注意が必要です。
こんな方にオススメ
私の考える機械式腕時計をオススメできる方は、ずばり「腕時計にロマンを持てる人」。
実用性だけでいえばクォーツ時計や、Apple Watchのようなスマートウォッチを使った方が良いです。いつでも正確な時刻を示してくれ、軽く、コストも安い。さらには機械式腕時計では計測できない、脈拍や気候なんかも示してくれる。実用性では機械式腕時計は全く歯が立ちません。
それでも機械式腕時計が好きな人、それは、ムーブメントの微細な部品の精緻な動きに感動を覚えたり、使わないと動かなくなる面倒臭さを可愛いと思えるような人たち、長い年月を共にすることで愛情を育んでいきたいと思える人たち、ではないでしょうか。
単なる「モノ」ではなく、「相棒」として腕時計を愛でることができる人には、断然、機械式腕時計がオススメです。

クォーツ式ってなに?
機械式の動力源はゼンマイのほどけるクォーツ式の腕時計は、電池を動力源にしています。この電池の電流を時計に内蔵された水晶振動子に流すことで細かく振動をします。この振動を針を動かす機構の「ステップモーター」が電子信号に変え、歯車を通じて時計の針を動かしています。この水晶は英語にするとクォーツ(Quartz)であることから、クォーツ式と呼ばれています。
時針や分針などの針を用いて表示をするものをアナログクォーツ、液晶画面に数字で表示するタイプをデジタルククォーツと呼びます。

なお、クォーツ時計を市販の腕時計に初めて搭載したのは日本のセイコー。
1969年に「セイコー クオーツアストロン 35SQ」という名で発売されました。
その後70年代にはクォーツ時計は大量生産可能で安価な価格設定が可能となり、世界の腕時計界を席巻。スイスなどの老舗機械式腕時計メーカーが大打撃を受けたことから、「クォーツショック」と呼ばれました。
クォーツ式腕時計のメリット・デメリット
クォーツ式のメリット
精度が高い
クォーツ時計の大きなメリットとしては、その精度の高さが挙げられます。
電池から流れる電流により、水晶振動子は1秒間に実に数万回の振動数を実現します。この高い振動数が高精度の源。機械式時計では1時間に28,800振動などですので、比較にならない高い振動数なのがわかります。
そのため、たとえ安価な時計であっても、月差が15~30秒程度の精度のものがクォーツ時計にはザラにあります。機械式時計の精度がは「日差」数秒〜数十秒であることを考えると、クォーツ式時計の精度の高さがよくわかるのではないでしょうか。
高級クォーツ式モデルであれば、「年差」数秒のモデルまであります。日差でなく「年」です。
例えば以下のCITIZENのAQ4091-56M。エコ・ドライブ搭載で驚愕の「年差±5秒」です。

最近では光によって自家発電する光発電クォーツを搭載するモデルもあります。これらは光をエネルギーに変換できるため、光がある環境ならば、半永久的に動き続けることができます。
電池が切れたら突然止まる、ということがなく、末長く使うことができる点は機械式時計にも通ずる利点にもなりますね。
かくいう私も、G-SHOCKを買う際に光発電のモデルに絞って候補を決めていました。やはり気に入った腕時計は長く使っていきたいので、光発電は個人的には非常にありがたい機能です。
軽くて薄い
クォーツ時計の利点として、ムーブメントの構造が機械式に比べシンプルなため、厚みも薄く重量も軽く作れるため、応じて時計全体も薄く、軽く仕上がるものが多いです。
腕時計の重さが気になる方には利点となるでしょう。
磁気や衝撃に強い
クォーツ時計は、機械式時計の大敵である磁気や衝撃、振動からの影響を受けにくいという利点も持っています。
磁気帯びによって精度に影響が出たりする可能性が低いので、デジタルデバイスに囲まれた現代社会に生きる我々にとっては、安心して使うことができますね。
仮に磁気を発するものに近づけすぎて止まってしまっても、磁気から遠ざければまた正常に作動することが多いので、過度な心配が不要な点も魅力でしょう。
価格がリーズナブル
クォーツ式はムーブメントが大量生産可能なため、機械式時計に比べ安価な値段設定になっていることが多いです。
いろいろなブランドで、同モデルに機械式、クォーツの両方をラインナップに揃えています。そうした場合、見た目はほぼ同じですが、価格は大きく異なるなんてことも。機械式にこだわりがなければ、同モデルならクォーツムーブメント搭載のモデルの方がコストパフォーマンスは優れていると言えそうです。
ただ、より高価になる機械式時計の方が、ダイアルやブレスレットなどの仕上げなど細かい点でもクォーツ版の同モデルより手の込んだ作り込みがなされていることも多いです。やはり全く同じ見た目だと安価な方を選ぶ方も多いでしょうから、メーカー側も購入単価向上のために、高額モデルの方により付加価値をつけていくのも自然な流れでしょうね。
たとえば、オメガのコンステレーション36mmの場合、機械式ムーブメントの場合はブレスレットの仕上げがより立体的で高級感を感じるものになっています。
それぞれ価格は機械式:定価946,000円、クォーツ:462,000円。
この差をどう感じるかは人それぞれでしょう。

引用:https://www.omegawatches.jp/

引用:https://www.omegawatches.jp/
クォーツ式のデメリット
トルクが弱い
クォーツムーブメントは機械式のムーブメントに比べ、トルクの力が弱い傾向にあります。
十分なパワーを持ち合わせていないため、クォーツ式の多くのモデルには太い針や、複雑な機能を搭載することが難しい場合が多いです。
機能やデザインが制限される
上述のトルクの弱さに起因し、シンプルな機能に制限されがちなクォーツ時計は、複雑な機構を搭載することが難しく、デザイン的にも制限が多くなりがちです。
ただし、昨今ではグランドセイコーやザ・シチズンのような高級クォーツ時計では、針の太さも機械式のそれと遜色ないモデルも発表されておおり、弱点も克服されていっているようです。
電池が切れると止まる
電池で動くクォーツ時計は、電池が切れれば時計は止まります。一般的に2〜3年で電池交換が必要な場合が多いようです。
電池残量が少なくなってくると、針の動きで事前に通知をしてくれる機能を搭載したモデルもあります。ゼンマイを巻けば再び動き出す機械式時計に比べると、電池が切れると動かなくなるクォーツ時計は、個人的には少し無機質な感じに思えてしまいますね。
ただし、先述の通り、最近は光発電可能なクォーツ時計も数多くあるので、電池切れによるトラブルは少なくなってきているとは思います。
電池が切れると止まる
電池を使い電子回路を通じてエネルギーを伝えるクォーツムーブメント。いくら電池を交換しても、内部の電子回路が劣化、故障するとそこで時計の寿命は終了です。
中身のムーブメントごと交換すればまた復活できますが、その場合は新品を買った方が安くあがる場合も多いようです。長期使用を前提にするならば機械式腕時計の方が理にかなっているかもしれませんね。
こんな方にオススメ
私が思うクォーツ腕時計がおすすめの方は、合理性重視だけどスマートウォッチにはない審美性も欲しい人。
時間を確認するという、腕時計の本来の役割に重きを置けば、クォーツ時計の方が機械式時計に勝るのは一目瞭然。価格も機械式腕時計と比較し安価であることが多いので、実用面での性能だけで見るとクォーツの方に軍配が上がるでしょう。
かといって、実用性に振り切ったスマートウォッチだと、どうしてもカジュアル感の強い見た目になりがち。ある程度フォーマルな場への適合性や仕上げの輝きなどの審美性も腕時計に求める方には、腕時計ブランドが出しているクォーツ時計が合うと思います。
自分に合った駆動方式の腕時計を選ぼう
機械式時計とクォーツ時計、それぞれにメリット・デメリットがあり、自分の趣味嗜好やライフスタイルによって使い分けられると良いですね。私も両方の腕時計を所有していますが、使用シーンによって選ぶモデルも違ったりします。
改めてまとめると以下の通り。
機械式腕時計
- 時計内部の機械のゼンマイを巻き、ほどける力を動力源として大小複数の歯車を通じて針を動かす仕組み
- メンテナンスをしていけば数十年、世代を超えて長期使用が可能
- さまざまな機構もあり趣味性、資産性に富む
- 使用しないと止まってしまい、ゼンマイを巻き上げる作業が必要あり
- 購入費用だけでなく、数年に一度のオーバーホールなどの維持費もかかる
- 磁気や衝撃、振動に弱い
クォーツ式腕時計
- 電池の電流により水晶振動子の細かい振動を電子信号に変えたエネルギーによって時計の針を動かす。
- 精度が高い
- 軽く、薄いムーブメント
- 磁気や衝撃に強い
- 価格が比較的リーズナブル
- トルクが弱く、太い針や複雑機構には適さない
- 内部の電子回路が劣化すると寿命が尽きる
- 最近の高級クォーツ時計は、上記の短所を克服した力強いムーブメントや、光発電機能、オーバーホール可能なモデルも出てきている
どちらも一長一短、自分にあったムーブメントはどちらか考えたり、使用シーンによって使い分けて楽しい腕時計ライフを満喫していただければ幸いです。
