腕時計に使われる材質の中で最も一般的であろうステンレススチール。
しかし、
「なぜステンレスが腕時計に使われることが多いのか?」
「どんな特徴があるの?」
「メリット、デメリットは?」
とふと疑問に思ったことはないでしょうか?
私も何気なく使用していて以前は気にも留めていなかった腕時計の材質。
ステンレススティールは腕時計以外にも日用品の多くに使われる身近な素材ですが、
意外と知らないことも多いのではないでしょうか?
304、316、904と言われて、違いがわかりますか??
ご自分の愛用時計に使われている素材のことを深く知れば、
今まで以上に腕時計に愛着がわくことになるかも知れませんよ?!
ステンレススティールとは
ステンレススティールとは何か。
英語だと「Stainless steel」。その名の通り、サビにくい鋼です。(サビないわけではない)
鋼は鉄と炭素の合金ですが、鉄は不安定な物質のため、空気中の酸素や水分と接触することで酸化してしまいます。
これがいわゆるサビ(錆)です。
サビにも種類ありますが、最も一般的な赤サビは、発生すると金属内部まで酸化が進行し、
はがれたり、もろくなったりと、金属の耐久性に著しい悪影響を与えてしまいます。
一方でステンレススティールは、鉄にクロムやニッケルなどの元素を加えた合金鋼。
鉄にクロムを加えることで、金属の表面に非常に薄い酸化皮膜(不動態皮膜)が作られます。
この不動態皮膜が水や空気などの周辺環境との反応を起こしにくくし、耐食性が強くなるのです。
不動態皮膜の厚さは約100万分の3mm程度。
非常に薄い皮膜ですが、強力な硬度を持ち外界からバリアのようにステンレススティールを守ります。
また、何らかの原因で皮膜が破壊・侵食されたとしても、その原因を取り除き、
ステンレススティールが空気中の酸素と接することができるようにすれば、
クロムと空気中の酸素が化学反応を起こし、不動態皮膜は再生します。
今日のステンレススティールはクロムを10.5%以上添加されており耐食性が強化されています。
また種類によってはニッケルやモリブデンが加えられ、耐食性がさらに向上されています。
ステンレススティールの種類
一概にステンレススティールといっても、包丁やナイフなどの刃物類やシンク、自動車、機械など様々なものへ使用されており、
それぞれの用途に合わせて配合内容も異なり種類も豊富に存在しています。
その数、日本で使用されているものでも配合率により複数系統60種類以上だとか。
腕時計はオールステナイト系ステンレススティールが一般的
そんな豊富な種類があるステンレススティールですが、腕時計でよく使用されるのは系統はオールステナイト系。
鉄に加えてニッケル8%、クローム18%などを含み、湿気、海水、汗などに対する耐食性を高められています。
家庭用品・建築・自動車部品など、幅広い用途で使用されていますが、
腕時計に使われる種類は次の3つが一般的です。
SUS304
腕時計に限らず、最も一般的に使用されるのがこのSUS304。
世界中のステンレススティールのうち60〜70%はSUS304とも言われています。
後述のSUS316などに比べ比較的安価なこともあり、腕時計の中でも最も一般的に使用されています。
大気中における耐食性、耐酸性、耐孔食性、隙間腐食への耐性といった錆や腐食に強い点が特徴。
また、耐熱、耐低温度性も高く磁性も持たないので腕時計にはうってつけですね。
ただし、加工硬化という性質を持ち、元来の硬さが加工時にさらに増すため、
切削性が悪く腕時計のケースを作るのには不向きとされています。
SUS316・SUS316L
SUS316はSUS304にモリブデン(Mo)というレアメタルの一種を添加し、
耐食性、耐孔食性を向上させたステンレススティールです。
含有率はクロム18%、ニッケル12~15%、モリブデン2.5%。
モリブデンを添加することでクロムの自己修復機能を助け、
不動態皮膜の破壊・侵食を防ぐ力がより一層強化されています。
高品質な素材であることから、高級腕時計にも多く使われています。
ただし、304に比べて添加される物質も多いことから、価格も相応に高くなってしまいます。
その316から炭素量を減らしたのがSUS316L。
LはLow carbonの頭文字のLをとったものです。
炭素量を少なくすることで、焼きなまし状態の硬度が316よりも低く加工性に優れます。
また、ステンレススティールが溶接などで熱を加えられた際、
金属中の炭素とクロムが化学変化で結合し、クロム炭化物が生成されるのですが、
この炭化物により部分的にクロムが不足する箇所が出てきてしまいます。
クロムが不足すると、不動態皮膜の自己修復機能も落ちてしまうため、
その箇所から腐食やサビが起こってしまう可能性があります。
この課題を減らすのが、元の炭素量を減らした316L。
炭素量が少ないのでクロムとの結合量も相対的に下がるので、
耐食性がより一層強化することができるようになります。
316Lは金属アレルギーの心配も少なく、医療用機器などにも使用される高級ステンレス素材。
耐食性や耐磁性、対アレルギー性、加工性に全方位に優れており、腕時計にとって理想的な素材の一つと言えます。
904L
904Lステンレススティールは「スーパーステンレススティール」とも呼ばれ、
主に航空宇宙、化学産業で使われている超高級ステンレススティールです。
クロム、モリブデン、ニッケル、銅などの含有量が高く、
316L以上に腐食やさび、酸に対して優れた耐性を持っています。
また、磨きをかけるとその他のステンレス以上の輝きを出すのも特徴。
ただし、成形加工が非常に難しいため高度な技術力をもつメーカーしか使えません。
この904Lステンレスを使用しているので有名なのは、やはりロレックス。
腕時計に初めてこの素材を使用し、現在のステンレススティールモデルはすべて904Lでケースが作られています。
その他には、ジラールペルゴ、ボールウォッチ、ジンなどは一部のハイエンドモデルで904Lを使用しています。
まとめ
- ステンレススティールとは鉄にクロムやニッケルなどの元素を加えた合金鋼
- クロムの作り出す不動態皮膜がバリアとなって傷やサビなどから守ってくれる
- 腕時計に使われるステンレススティールはSUS304、316、904の3種類
- 316Lのように炭素量を減らしさらに耐食性をアップさせた素材も
- スーパーステンレススティールSUS904Lはロレックスが元祖。
いかがだったでしょうか?
私は腕時計に興味を持つ前は、ステンレススティールに違いがあるとは考えておらず、
腕時計も台所のスプーンや包丁と同じ素材でできていると思っていました。
「なんでスプーンと同じ金属の塊で数十万円、数百万円も払わなきゃならないんだ」そんな風に思っていました。
恥ずかしや・・・
しかし、ステンレスでも数多くの種類が存在し、腕時計には腕時計に最適な素材が選ばれている。
当たり前かもしれませんが、その事実を知ってから、腕時計のことを使われている素材の面からも見れるようになり、
時計選びの幅が少し広がりました。
皆さんもお手持ちの腕時計の素材を調べてみると、意外な魅力を再発見できるかも知れませんね!