この世界には数多の腕時計ブランドが存在し、毎年たくさんの新しいコレクションが発表されています。
無尽蔵に資金を持っていれば、気に入った腕時計を片っ端から買い集めることも可能でしょうが、私のような庶民には夢のまた夢。
金額の多寡はあれど腕時計は決して安い買い物ではないので、一般的には腕時計を購入する前にあれやこれやと、どの腕時計を購入するか”選ぶ”という行為が入ると思います。
しかし、数年前の私自身がそうであったように、腕時計にあまり詳しくない方やこれから腕時計を買おうと思っている方にとっては、そもそもどう選んだら良いのか、選び方自体がよくわからない。
そこで今回は、腕時計初心者の自分自身へのおさらいも兼ね、どういう基準で腕時計を選んでけば、ポイントを外さずに理想の一本を選ぶことができるか概要をまとめてみました。
これから腕時計を購入される方や、エントリーモデルをお探しの方の参考になれば幸いです。
着用シーンは?
まず腕時計を選ぶにあたって、一番初めの出発点はその腕時計の着用シーンでしょう。
泥や水のかかる可能性のあるアウトドアで使う時計と、ビシッとタキシードを着て参加するようなパーティーシーンとでは、腕時計に求められる要素があまりにも違います。もちろんファッションの”外し”として、あえて対照的なファッションコードを取り入れていく場合もあるでしょう。ですが、大人たるものTPOをわきまえ、シーンにあった装いが求められるのもこれまた事実。
まずはご自身がどの場面で腕時計を着用するかで、選択の大枠を決めていくのが良いかと思います。
ざっくりシーンを考えると以下のような感じでしょうか。
- 冠婚葬祭
- ビジネス(堅めスーツスタイル)
- オンオフ兼用(ビジネスカジュアル)
- 遊び(プライベートカジュアル)
- アウトドア
- ハードワークナイト系
冠婚葬祭
最もフォーマルなシチュエーション。最近だと結婚式などの慶事ではそれほど厳しいルールがあるわけではないですが、格式の高いパーティーなどでは厳然たるルールがあり細心の注意が必要なようです。また、お葬式の場合も場違いな腕時計はひんしゅくを買う原因となるので避けたいところ。
特にお葬式ではダイヤなどの宝飾やゴールドを使用した腕時計は絶対NG。また、腕時計が目立たないようケース径の控えめな腕時計がよしとされます。間違ってもごつい金無垢のダイバーズなんか着けて行かないように・・・
では、腕時計が良いかというと、華美な装飾や不要な機能が削ぎ落とされたシンプルな3針もしくは2針のドレスウォッチ。ステンレスのブレスレットよりも、レザーベルトの方がよりフォーマルさが増します。文字盤も白、華美でないシルバーもしくは黒。
ビジネス(堅めスーツスタイル)
ここで想定しているのは冠婚葬祭ほどではないものの、フォーマルなビジネススタイル。
業界や職種にもよりますが、スーツにネクタイで仕事をする場面にマッチする”真面目な時計”。やはりあまり華美にならないシンプルな三針で、ステンレススチールがメインになるのではないでしょうか。
文字盤の色は黒、白、シルバー、ブルー。最近ならば濃いめのグリーンなんかも入るかもしれません。
オンオフ兼用(ビジネスカジュアル)
感覚的にはこのあたりから一気にデザインの自由度は上がる気がします。
業界的に服装の自由度が高い業種などは、たとえスーツにネクタイでもここのカテゴリーに入るかと思います。
このカテゴリーになると、クロノグラフやダイバーズなどのツールウォッチ出自の腕時計も候補に挙がってくるでしょう。
カジュアル
ここからはもう個人の趣味嗜好の領域。
自分のセンスと価値観に従い、気に入ったものを選べばよしでしょう。
アウトドア
カジュアル同様、ご自身の好みの腕時計を選べば問題ないですが、使用環境に応じた機能を有しているかのチェックは重要です。防水性能や耐衝撃性、傷のつきにくい素材かなど、よくよく調べてみてください。
特に防水性は水辺での使用や突然の雨への対策として必須機能。100m以上の防水性能であると安心かと思います。ただし、10気圧(bar)と100m防水は一見同レベルと思われがちですが、規定される防水性能は異なるのでご注意ください。
ハードワークナイト系
これは私の過去の失敗への自戒も込めたカテゴリー。ハードワークナイト、すなわち想定されるシュチュエーションは”深酒のおそれのある仕事上の飲み会”。
要は、「酔っ払ってラフな扱いをしてしまうかもしれないが、仕事の場なのでカジュアルすぎる腕時計はそぐわない」、そんな場面です。
みんなで二次会にカラオケにでも行ったりしたら、得意先の熱唱に合わせてタンバリンを勢いよくぶっ叩くかもしれない、送別会で見送る人を胴上げしたりするかもしれない、酔っ払って盛大に転ぶかもしれない。
そんなシチュエーションに対しては、「最悪、壊れてもまた買えばいいや」くらいに思える、傷などついても精神的にリカバリーの利きやすい腕時計を着用することをオススメします。飲みの席が多い方なんかは意外と重宝するかと思いますよ。
以前、私も仕事の飲み会でだいぶ酔っ払ってしまい、帰宅時に自宅最寄りの駅を寝過ごしそうになったことがあります。発車ベルの音で目を覚まし、慌てて電車から駆け降りたのですが、閉まりかけた電車のドアと腕時計を勢いよくぶつけてしまい・・・直後に腕時計に目をやるとすでに後の祭り。秒針がまるで痙攣してるかのような見るからに異常な動きをしており、一気に酔いが覚めました。その後自宅に帰って改めて時計を見ても、異常は変わらず、針もぶつけた時刻で腕時計は止まっていました。さながら腕時計に死亡時刻を見せつけられているような感じ。絶望感が半端なかったです。
それ以来、激しい飲みが予想される日は気兼ねなく使える腕時計を着用して臨むようになりました。飲み用と言ってもちゃんと気に入った腕時計なのでもちろん大切に使ってはいますが、まさかの保険として・・
やっぱり見た目
なんだかんだ言って、腕時計を選ぶ選択基準はやっぱり見た目の好みが最も大きい要素ではないでしょうか。どんなに素晴らしい機能があっても、どんなに高精度なムーブメントを積んでいても、見た目が好きでなければ自腹を切ってその時計と共に時を刻んでいこうとは思わないでしょう。
デザイン
ここは自分の気に入ったデザインを選べばよしでしょう。ただ、腕時計単体のカッコ良さと装着した時のカッコ良さは案外違ったりするもの。まずはご自身のファッションや雰囲気など、全体的な統一感があるとよりカッコ良く見えると思います。
同じモデルでも、金属ブレスレット、ラバーベルト、革ベルトと素材が変わるだけでもガラッと印象が変わるものです。
サイズ
サイズは、ご自身の手首のサイズに収まるサイズが、見た目的にも装着感としてもベターな選択です。
そこで注意して確認すべきポイントは、ラグからラグまでの縦の長さ。
ケース直径は各メーカーが商品情報で掲載していますが、縦の長さはあまり商品紹介などで触れらていなかったりします。このラグからラグにかけての長さが手首の幅を超えてしまうと、小さな子供がお父さんの腕時計をつけているようなアンバランスで子供っぽい印象を与えてしまいます。
かといって、あまり小さい腕時計をするのもまた違和感の原因に。腕の太い方が小さな腕時計をすると、腕時計が貧相に見えてしまい、また腕の太さが強調されることとなります。
一般的には手首幅の60〜70%のケースサイズがバランスの良いサイズ感といわれています。しかし、ベゼルの太さやデザインによって見え方は異なります。また、肌が接する場所の仕上げなどの影響で、同じケースサイズでもモデルにより装着感は異なるので、まずは実物を試着するのが最良の方法です。
また、ケースの厚みと重さにも着目してみてください。一般的には薄くて軽い時計の方が、厚くて重い腕時計より装着感は良いです。
厚い薄い、重い軽いは個人の感覚による部分が大きいですが、私個人としては100gまでは軽い、150g程度までは普通、200g程度は重いと思っています。
また、薄さの基準はケース厚7mm未満=極薄、10mm未満=薄型、12mm〜15mm=標準、それ以上=厚いと分類されるようです。
素材
最も一般的な腕時計の素材はステンレススチール。一概にステンレススチールと言っても、316や904など種類があります。長く使うことを前提に腕時計を買うのであれば、耐食性に強い316Lのステンレススチールを使用しているものを選ぶのも良いかと思います。
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また、金属アレルギーが心配な方や軽い腕時計が好みの方は、チタンやカーボンなどの素材の腕時計もあります。ただし、これらは加工が難しいことからステンレススチールの腕時計より高額になる傾向が。
さらに、よりラグジュアリーな雰囲気を楽しみたい方には、ゴールドやプラチナなどの貴金属を使用した腕時計もオススメです。
貴金属なので当然ステンレススチールなどより高額になりますが、貴金属特有のずっしりくる重みに所有感を大いに掻き立てられることでしょう。
ただし、ゴールドなどはステンレススチールより柔らかく傷がつきやすい傾向にあるため、腕時計の扱いに慣れていない初心者の方には少々ハードルが高い気も。「傷なんて気にせず金無垢をガシガシ使うんだ!」という方以外は、最初の一本にこれらの腕時計を選ぶのは避けた方が無難な気がします。
仕上げの美しさ
高級腕時計とそうではないものとで、見た目の印象を二分するものは仕上げの美しさではないでしょうか。
サテン仕上げの筋目が一本一本繊細な加工がされている、ポリッシュ仕上げがまるで鏡のように歪みなく磨き上げられている、そんな仕上げの素晴らしい腕時計は、何時間でも眺めていたくなる魅力があります。ムーブメントが見える腕時計であれば、ムーブメントの装飾も楽しむことができます。名高い高級腕時計のムーブメントの中には、仕上げや装飾の彫りを手作業で行なっているメーカーもあり、まさに芸術品といえる美しい装飾をもつ腕時計も多々あります。
写真ではなかなかわかりにくいですが、いわゆる高級と言われるブランドの腕時計は、実物を見たら一発で良い時計だとわからせる有無を言わさぬパワーがあります。神は細部に宿ると言いますが、そのパワーの源泉は、磨きの技術や細かい造形への精緻な加工などによるのかなと思います。
このパワーは写真やCGの商品画像では伝わりきらないので、やはり気になる腕時計は実物を手に取り、細部の作り込みをじっくり見て見ましょう。
機能性
着用シーンに応じた機能が求められるのは言うまでもないですが、ご自身にとって優先順位の高い機能は何かを事前にはっきりしておくと、腕時計選びでの迷いも小さくなるのではないでしょうか。
機械式かクォーツか
まずは駆動方式。
腕時計の駆動方式は機械式かクォーツの二つに大別されます。
機械式はその名の通り機械によって動く腕時計で、巻き上げられたゼンマイがほどけていく力を利用してムーブメントを動かします。精度はブランドやコレクションによって差があり、日差±数秒〜数十秒の範囲。メンテナンスをしながら使えば、数十年、場合によっては世代を超えて長期間使用することが可能です。そこにロマンや意味を見出せる方はぜひ機械式を検討いただければと。
一方のクォーツは、水晶の振動によって発電したエネルギーでムーブメントを動かします。一般的には電池を使用しますが、シチズンのエコドライブのようにソーラー充電可能なものも多く発表されています。
特徴としては、振動数が機械式時計の数千倍あり高精度であること。機械式時計が日差で示されるのに対し、クォーツは一般的でも”月差”±15秒。シチズンは驚異的な年差±1秒時計も販売をしてます。また、価格も機械式に比べ安価に抑えられるのも利点の一つです。
防水性
本来、腕時計は精密な機械であり水は大敵。その腕時計の設定された防水性能を超える水圧がかかると、腕時計内部に水の侵入を許してしまい、パーツやムーブメントが錆びや腐食し、故障の原因となってしまいます。
そのため一定以上の防水性能を持つ腕時計だと安心ですが、各防水性能基準の許容範囲をしっかりと理解する必要があります。
メーカーやその準拠する規格によっても異なりますが、例えば日常生活防水としてよく採用される「3気圧防水」を例にとると、これは静止状態で水深30mまでなら作動しますよと言う意味。決して30mまで潜ってOKと言う意味ではありません。3気圧防水だと、手洗いの水飛沫や汗程度までが守備範囲。水仕事などは想定されていませんのでご注意ください。
個人的には10気圧防水以上あると安心かなと思っています。日常生活強化防水と呼ばれるこのレベルの防水性なら、水仕事はもちろん素潜り程度までなら耐えられます。これなら突発的なゲリラ雷雨のような天候不順が予想される日でも、慌てることなく着用することができます。
パワーリザーブ
機械式の場合、ゼンマイの駆動可能時間=パワーリザーブがあります。
短めのものだと40時間程度、最近の高級腕時計だと60〜70時間ほどが多くなってきた印象です。長いものだと120時間と言うものも。
腕時計が1本だけで、その時計を毎日使い続ける場合は40時間もあれば十分。
ですが、例えば仕事用の腕時計で週末は使わない場合、パワーリザーブが70時間あれば、金曜の夜に腕時計を外し月曜の朝にまた装着しても、腕時計が止まらずにそのまま使用できるメリットがあります。
ただ、腕時計が増えて複数本所有するようになると、それほど重要な要素ではなくなるのかなとは思います。結局ローテーションを組んで使ったりしてもどれかは止まってしまうので・・
また、止まってしまった腕時計のゼンマイを巻いて、時刻あわせをするのも一つの機械式時計の楽しみでもあるので、私自身はあまりパワーリザーブは重要視していません。
装着感
どんなに気に入って買った腕時計も、装着感が悪いと結局徐々に使うのが億劫になって身につけなくなってしまいます。上に挙げたサイズや重さ、肌が触れる部分の仕上げの丁寧さによっても装着感の良し悪しは左右されます。
また、重心の高低も装着感に大きく影響します。
重心が低ければ、たとえ重量自体は重い部類に入っても装着感は良好な場合が多いです。ですが、逆に重心が高いと、軽い腕時計だったとしても、腕の上で腕時計が動きがちで腕の動きに合わせて遠心力で実際の重量以上の重さを感じてしまいます。
視認性
腕時計の主目的は、時間を確認すること。
当然ながら腕時計の文字盤が見やすく、瞬時に長針・短針の指す時刻を確認できなければなりません。
この視認性の高さに影響を与えるのが、インデックスと文字盤のコントラスト。
例えば下のチューダー ブラックベイ 54は、黒の文字盤に白い夜光付きのインデックス・針を採用しており、視認性は非常に高いです。
また、文字盤のコントラストがはっきりしていても、文字盤を覆う風防に光が反射してしまい肝心の文字盤が読めないということも起こります。この光の反射を抑えてくれるのが、風防の無反射(AR)コーティング。
コーティングは風防内側のみのもの、外と内の両面に施されるものの2パターンあります。
視認性は両面コーティングの方が上がりますが、風防をぶつけたりすると外側のコーティングが剥がれるリスクもあるので考慮に入れた上で検討していただければと思います。
精度
先に触れたように、クォーツ時計の一般的な精度は月差±15秒、機械式は日差±数秒〜数十秒。
さらに、電波を受信して時刻を自動で修正していく電波時計、衛星からの位置情報や時刻情報で時間を表示するGPS時計などもあります。精度を最優先事項として腕時計を選ばれるのであれば、こうした電波やGPS受信機能のついたクォーツ時計がオススメです。
機械式は、クロノメーター認定を受けた高精度のモデルでも日差-4秒~+6秒以内。
クォーツに比べてしまうと精度の面では後塵を拝してしまいます。ですが、機械式腕時計の魅力は、電気の力を使わずに小さなゼンマイや歯車のみで駆動する点にロマンを感じる部分もあります。一概に精度だけで腕時計の良し悪しが決まるわけでもないと思っています。
価格
金額自体の高低は人それぞれ。ですが、これまで上記に挙げてきた点を見比べて、何をもってしてその価格になるのか考えながら腕時計を比較検討することをおすすめします。
同じクロノメーター認定の精度を持つ腕時計でも、メーカーが違えば価格も変わります。同じメーカー内でも、同ムーブメントを搭載したモデルでも価格が違うことは多々あります。それは素材が違うからなのか、宝飾の多寡によるものなのか、はたまた仕上げに手作業が多いからか、などなど。
また、そのブランドが広告や宣伝に多額の資金を投入していれば、腕時計自体の原価以外にそうしたコストが乗ってくるでしょう。
昨今、腕時計の価格もどんどん上昇しているので選択に失敗して後悔はしたくないもの。また、金額の高さ=満足感には直結しません。大切なお金をかけて長く使う腕時計ですので、自分の中で価格に見合う価値を見出しすことが一番重要なことかと思います。
まとめ
気になる腕時計の中から比較検討を重ねてじっくり候補を絞っていく場合も、一目惚れで衝動買いに走る場合も、程度の差こそあれ自分の中でその腕時計を選ぶに至る基準や理由があることでしょう。
何を重視し何に価値を感じるかは人それぞれですが、そもそも何を見れば良いのかわからなければ納得感を持った選択ができないと思い、簡単ではありますが時計選びのポイントを書いてみました。
自分が身につける腕時計について、「何に惹かれてこの時計を選んだのか」「自分の腕時計のここがポイント」などを語れると、腕時計を通じたコミニュケーションも広がり充実した腕時計ライフを送れるのではないでしょうか。
ぜひ色々な腕時計を手に取っていただき、最良の一本を見つけ出していただければと思います。