フレデリック・コンスタントの代表作の一つ、クラシック カレ、実は私にとって初めて購入した機械式腕時計でした。
それは今から約7年前、2016年の年明け早々のこと。当時の私は腕時計に機械式とクォーツの違いがあることもよくわかっていない超ド素人。かろうじて知っている高級腕時計ブランドと言えば、ロレックス、オメガ、タグホイヤー程度でした。そんな無知な私がひょんなことから高級腕時計を買おうとなり、某百貨店の腕時計フロアへ赴きました。
まず最初に驚愕したのは、私の予想と予算を遥かに超えるブランド時計のお値段でした。それまで私はシチズンの数万円のエコドライブの電波時計を使っており、文字通り桁違いに高額な腕時計ばかりが並ぶ様に圧倒されたのを覚えています。
意気消沈した私は購入を断念しかけていました。ただ、初めて足を踏み入れた高級腕時計フロア。せっかくの機会だったので、どんなブランドがあるのか後学のためにフロア全体を見て回ることにしました。
しばらくして、フロアの一角にクラシックで洗練された面持ちの腕時計が並ぶお店を発見。
元々クラシカルな小物などが好きな私には、好みにドンピシャな腕時計が数多く並ぶお店でした。「でも、また高そうな感じだな」とおもむろに値札に目をやると、今まで見てきた他のブランドに比べてリーズナブル!
そのブランドこそ今回ご紹介するフレデリック・コンスタントでした。その後、このブランドのことを色々と調べるうちに、値段は手頃でも品質は非常に高い腕時計を作っているブランドであるところに好感を持ち、初めての機械式腕時計として購入を決めるに至ります。元々カレを買おうと決めて店舗へ向かったのですが、ちょうど2015年冬から発売された500本限定のピンクゴールドプレートのカレをお店の方から勧められ、一目見るなり気に入りそのまま購入を決めました。
「クラシックなデザインの腕時計が好き」「本格的な機械式腕時計デビューをご検討の方」「手頃な価格で、でも品質は確かな腕時計が欲しい」そんな方々へオススメの腕時計となっています。腕時計選びのご参考になれば幸いです。
フレデリックコンスタントとは
腕時計をまだよくご存知ない方にとっては、フレデリック・コンスタントはまだまだ認知度は高くないかと思いますので、簡単に当ブランドのことをご紹介できればと思います。
フレデリック・コンスタントは創業は1988年と比較的若いブランドです。スイスのピーター・スタース氏と妻のアレッタ・スタース氏がジュネーブ郊外のトアネという町で創業しました。 ブランドコンセプトは「手の届くラグジュアリー」。スイス製の高品質な腕時計を手頃な価格で販売することを標榜しているブランドです。デザインはもとより、ムーブメントの開発、組立て、品質管理も全て自社にて行うことのできる、スイスでも数少ないマニュファクチュールでもあります。
同社は、創業まもない1994年には世界初となるオープンダイアルウォッチ「ハートビート」を発表。機械式時計のムーブメントの心臓部である”テンプ”と呼ばれるパーツを、文字盤の表から見せることで歯車や針のリズミカルな動きを目で見て楽める画期的なデザインでした。ハートビートは発表から瞬く間に人気を博し、フレデリック・コンスタントのアイコン的存在へ。
その挑戦的な企業姿勢は今も変わらず、創業から30年ほどしか経っていませんが、最上級の複雑機構であるトゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーも自社で開発。
2021年には、一般的な機械式時計の10倍の振動数である毎時288,000振動(毎秒80振動)のシリコン製モノリックオシレーターのムーブメントを世界で初めて発表しており、その技術力の高さを世に知らしめ続けています。
逆の意味で値段に見合わない、高品質な腕時計を次々と発表しているコストパフォーマンスの高いブランドです。
なお、2016年よりフレデリック・コンスタントは日本のシチズングループ傘下となっています。日本でのアフターケアのサービスなども盤石な体制が整っているのはありがたい限りです。
ブランド哲学に惚れる
「手の届くラグジュアリー ACCESSIBLE LUXURY」をブランドコンセプトに掲げるフレデリック・コンスタント。
高価格帯のブランドがひしめく腕時計生産のメッカであるスイスの新進ブランドながら、すでに30種類ほどの自社製ムーブメントを開発し、名だたる高級ブランドを凌ぐ勢いで高品質な腕時計を世に送り出しています。
にも関わらず、その販売価格は機構や品質を考えたらありえないほどの良心的な価格設定です。ブランドとして力をつけると得てして価格は上がっていくのが世の常ですが、高品質なスイス時計を手の届く価格帯で販売することを創業から30年以上経った今でも堅守するその企業姿勢は、私のような庶民にとっては非常に好感が持てありがたいですね。
決して安い買い物ではない高級腕時計。ましてや、それまで数万円の腕時計しか使ったことがなかった当時の私のような腕時計初心者にとっては、数十万円を腕時計に払うというのは非常にドキドキする勇気のいるものでした。せっかく高いお金を払って買う腕時計ですから、後で後悔はしたくはありません。
その点、フレデリック・コンスタントなら自社一貫生産による妥協のない腕時計作りをしているブランドですので、品質面は折り紙付き。
それでいて価格も非常に良心的なので初心者の方にも胸を張っておすすめできます。
また、他メーカーであればもっと高額な機構を楽しめるラインナップもあるので、腕時計好きな方にも魅力的なモデルを見つけることができるのではないかと思います。
もう一つ、私が魅力に感じたのが同社のキャッチフレーズでもある「Live Your Passion」。新進ブランドながら世界初のハートビートやシリコン製モノシリックオシレーターを発表するなど、情熱的に腕時計開発を続けるその企業姿勢はまさにLive Your Passionを自で行く仕事ぶりです。
細部までこだわり抜きつつ効率的な時計作りができるよう自社生産体制も早くに確立。手の届く価格帯で多くの人に腕時計を広めるべく、妥協せず品質と良心的な価格を突き詰めていく真摯な企業姿勢は、浮ついた感じがなく非常に頼もしく、これからもずっと応援したくなるブランドだと思っています。
デザイン
前置きが長くなりましたが、実機を見ていきたいと思います。
フレデリック・コンスタントのクラシック・カレは、レクタンギュラー型のケースにローマ数字のダイアルがクラシカルで落ち着いた印象を与えデザイン。他モデルにも共通していますが、デザインは決して奇をてらわずシンプルで上品なものになっています。
本作の最大のポイントは、やはり12時位置にあるオープンハート。
アイコニックなこの意匠が、他のクラシックな時計とは一線を画すインパクトを与え、十二分に個性を発揮しています。
この”クラシカルだけどちょっと個性的”な魅力が、私がこのモデルを気に入った部分でもあります。個人的に、全くのシンプルで無難なものよりも、どこかに一癖あるものが好きなんですよね。
インデックスのローマ数字は大ぶりのペイント。アプライドされたダイアルではありませんが、ローマ数字の大きさが配置ごとに変わり、のっぺりとした印象にはなっていません。
また、時針の動く軌道に合わせて施されたレイルウェイデザインと、そのレイルウェイの内側の美しいギョーシェ彫りが程よいアクセントになっており、ダイアルに間延びした印象を抱かせないようになっています。
また、針の色はブラック。ダイアルのローマ数字やレイルウェイもブラックと同じく、針も黒で統一されておりダイアル全体が締まって見え大人な雰囲気に。
なお、私のカレは2015年冬に発売された500本限定品なので、現行品ラインナップにはない針の色となっています。
(現行品のローズゴールドプレート使用のモデルは青針)
細部の仕上げ
ダイアル中央部のギョーシェ彫りは繊細なタッチで仕上げられており、腕時計に上品さと洗練された印象を与えています。
また、それを囲うレイルウェイもただのペイントではなく、ダイアル面よりわずかに一段高くなっておりダイアルにメリハリを与えるのに一役買っています。
私のクラシック・カレは、当時では初めてケースにピンクゴールドプレートが使われた限定500本のモデル(Ref: FC-315MS4C24)。
現行ラインナップにはピンクゴールドプレートのモデルもありますが、異なるのはムーブメントの金属と針の色。オープンハートからのぞく逆転したデイト数字と逆転した数字のリング、並びにハートビートの窓の縁取りが、限定品の方はケース色と同じくローズゴールド色に統一してそろえられています。
また、ダイアル内のレイルウェイ外周とオープンハート内のデイトのリングが一続きにそろえられているので、レイルウェイが描く円周は途切れることなく視覚的な統一感が保たれています。こういうあまり気づかないような細部までデザインが整っていると、全体としての統一感が生まれ腕時計に洗練さを感じるポイントとなりますね。
一つ一つの細部について言えば、100万円を超えるような高級腕時計には及ばない部分は確かにあると思いますが、販売価格からして当たり前の話です。
しかし、洗練されたクラシカルなデザインと、細部のこだわりの積み上げがこの腕時計を値段以上の高級感と上品さを持った腕時計に昇華しているような気がします。
レクタンギュラー型のケースはケース自体も腕に沿うよう湾曲し、サファイアクリスタルの風防も同じくカーブを描いています。このケースの形が装着感の向上もさることながら、腕時計自体に柔和でエレガントな仕上がりを与えることとなっています。
リューズはオニオン型で非常にクラシカル。大きさも適度で回しやすいと思います。
ケースバックはシースルー。こちらもムーブメントのパーツの大部分がケースと同じくピンクゴールドプレートを用いられているので統一感はバッチリ。
ピンクゴールドの色味とともに、ローターにも社名と"26 TWENTY-SIX JEWELS SWISS MADE"の文字が彫られ高級感も抜群です。
シースルー部分を囲うように書かれた筆記体の文字もオシャレでかっこいい!ケース裏最下部にはLIMITED EDITIONの表記とシリアル番号が記載されていて、特別感を感じられるのも嬉しいポイントです。
ムーブメントもピンクゴールドプレートを使用。
着用感
ケース径は幅30.7㎜、縦47㎜(ラグからラグ)、厚さ10.2㎜。
縦径も50㎜を切っており、私のような細腕でもラグが手首からはみ出ることもありません。
重さも約60gと非常に軽いので快適な着け心地です。ケース形状も腕に沿うようにカーブされているので、重心が高く腕の上で振れるような感覚もありませんし、腕の上で重さが分散されて快適にフィットします。
購入当時の私は自分の手首サイズなどつゆ知らず、腕時計の大きさや重さを事前に調べることもなく購入しましたが、2本目の腕時計を購入するまで装着感の良し悪しを考えたこともなかったので、それだけストレスのない着用感であったということかと思います。
一点、これはこの時計に特有の不満ではないのですが、私が汗っかきなのでレザーベルトだとどうしても夏場は汗が気になります。
元々このモデルのベルトは茶色のレザーカーフレザーのベルトでしたが、夏場も関係なく使用をしていたため3年ほどでボロボロになってしまいました。購入時にもう一本のベルトを特典で頂いていたので、現在はその際に選んだネイビーのレザーベルトへ変更しています。
ちなみにラグ幅は22㎜です。
ムーブメント・精度
クラシック カレ ハートビートのムーブメントはFC-315。フレデリックコンスタントは自社製ムーブメントも製造できるマニュファクチュールですが、FC-315はセリタのSW200をベースのムーブメントになります。
精度は日差-5秒〜+24秒。パワーリザーブは38時間。
正直、パワーリザーブは今の基準で考えてしまうとアップグレードは必要かも知れませんね。
もっと精度の良い自社製ムーブメントを生産していますが、当然その分価格も上がります。価格を抑える上では汎用ムーブメントをベースに生産するのは致し方ないので、自社製ムーブメントにこだわる方は、カレの属する「クラシックライン」ではなく、別ラインの「マニュファクチュール」で琴線に触れる腕時計をお探しになってはいかがでしょうか。
着用シーン
クラシック カレはレクタンギュラー型のケースにローマ数字のダイアルと、非常にクラシカルな面持ちの腕時計なので、カジュアル度合いの強い服装やスポーティな服装には合わせにくいかと思います。
私の場合も着用はほぼ100%ビジネスの場で使用しています。少なくともシャツやポロシャツなどの襟付き、もしくはジャケットスタイルなど、どこかにドレス寄りのアイテムのあるファッションでないと、腕時計だけが浮いてしまうかもしれません。
ただし、オープンハートがあるので本格的なフォーマルシーンでは着用を控えた方が良いかと思います。
ちなみに、私の周りだけかもしれませんが、意外と女性にこのオープンハートとレクタンギュラーケースの組み合わせが好評です。
男性でピンクゴールドの腕時計をしている方が少ないので、ただ珍しくて目に留まるということもあるかと思いますが、女性ですとピンクゴールドのアクセサリーなどを男性に比べて着用される場合も多いので、色合いも含めて好印象を持てる腕時計のデザインのようです。
まとめ
手の届くラグジュアリーをコンセプトに、良質な腕時計をリーズナブルな価格で我々に届けてくれるフレデリック・コンスタント。
高級腕時計の初めての一本に選んでも間違いはありませんし、それをきっかけにさらに機械式腕時計の魅力を深掘りしたくなったとしても、様々な複雑機構や新しい機構を世に送り出すマニュファクチュールである同社は腕時計の魅力をしっかりと伝えてくれるブランドだと思います。
同社はクラシックなデザインの腕時計を作ることに注力していますが、ラインナップの中でもひときわクラシカルなレクタンギュラー型のケースを持ち、同社のアイコンであるハートビートを搭載したクラシック カレ ハートビートは、フレデリック・コンスタントのエントリーモデルとしては打ってつけではないかと思います。
私のカレは限定品ではありますが、現行の通常ラインナップのクラシック カレ オートマチック ハートビートと同性能・同デザインですので、気になる方はぜひ実機を手に取ってみてはいかがでしょうか。きっとその出来栄えに心動かす何かを感じ取っていただけると思います。
なお、限定品なのでもう中古でしか手に入らないと思いましたが、まだオンラインショップでは新品もわずかに残っているようです。
現行コレクションではなくこちらの限定品が良いという方は、現行品でデザインや着用感を確認しオンラインで限定品を手に入れるのも一つの手かも知れません。
Ref:FC-315MS4C24
【スペック】
- ケース:ステンレスローズゴールドプレート
- ストラップ:カーフレザーストラップ
- サファイアクリスタル
- ムーブメント:FC-315 自動巻
- 防水:3気圧防水
- ケース径:38.7x30.7㎜
- ラグからラグ:47㎜
- 厚さ:10.2㎜
- シースルーケースバック